心と体、体と心 〜「動き」で変わる心、心で変わる「動き」~
2016/12/11
投稿者:西村 晃

理学療法士/メンタルケア心理士
総合病院のリハビリテーション業務に携わる傍ら、人間の健康や自己治癒力に対するさまざまな治療概念や治療体系を学び、それらを研鑽し続ける。
心理にも興味があり、慢性疼痛と心理の関係、スポーツと心理の関係について探究しています。
悲しみや切なさといった感情、精神的な緊張や重圧状態の身体には「縮こまる、肩を落とす、体が硬くなる」といった反応がみられます。喜びや楽しいといった感情にある身体には「顔を上げる、息を大きく吸い込む、体が柔らかくリラックスしている」といった反応がみられます。
このように、心によって身体は反応することは誰もが経験上知っています。
ではその逆はどうでしょうか?
高校球児がピンチの時にマウンドに集まって天を見上げるといった行為があります(イメージ写真参照)。その後、見事にピンチを切り抜けるといった場面があります。
“顔を上げる”という体の動きから冷静さや集中力を取り戻した結果です。
イメージ写真
そうです。
身体の動きによっても心はつくられています。(ここでは姿勢も“身体の動き”に含みます)
フランスの心理学者であるH・ワロンは、姿勢の変化(筋肉の緊張)が情動と密接な関係にあることを説いています。心と体は双方向性の関係で互いに影響し合っているということです。
イラスト出典:
アナトミ-トレイン第1版 p48 一部改変 医学書院 2009
世界的な大企業であるgoogleでは社員が散歩しながらミーティングをすることがあるそうです。体を動かし、心を良好な状態にしておいた方が良いアイデアが生まれるからでしょう。日本でも机と腰掛けの会議から、あえて立ったままで会議をする企業もあります。
心と体の関係は、痛みという神経の活動にも影響を与えます。この関係を表した二つのエピソードをご紹介します。(二つとも私が実際に担当していた方のエピソードです)
・A子さんは、慢性的な膝の痛みを抱えていました。大好きなマレットゴルフもできない日々に心はふさぎ込んでいました。そんな時、友人に半ば強引にマレットゴルフに誘われました。不安を抱えながらプレイしていましたが、次第に夢中になり、全ホールを回り切りました。プレイを終えて帰宅すると、あれだけ長く患っていた膝の痛みが消えていることに気が付きました。
・B子さんは、背骨の一部を骨折してからというもの骨折は治っているにも関わらず、膝の痛みが出現するようになってしまいました。そんな時、お孫さんから旅行に誘われました。身体に自信を失っていたB子さんでしたが、カワイイ孫の誘いに一緒に出掛けることにしました。旅先では手を引っ張られながら、速足の孫のペースに必死についていきました。なんと、旅行から帰ってくると膝の痛みは消えてしまいました。
この二人に共通していたことは何だったでしょうか?
それは
「楽しい」という感情を基に体を動かし続けたということです。
少し専門的に解説しますと、
楽しいという感情を基に夢中に必死に体を動かした結果、高ぶっていた痛みを司る神経が、落ち着きを取り戻した(下行性疼痛抑制といいます)。そして関節を動かしている間に筋肉はほぐれ、関節液が関節を潤し、痛みが消えてしまったと推察されます。
落ち込んだ時や心の重圧から解放されたいときに、あえて身体を動かすことが有効だったりします。心を整えたいときに「体を動かす」ことから始めてみてはいかがでしょうか?
2016年12月
(理学療法士・メンタルケア心理士 西村 晃)